知らない知らない知らないあんな奴。私はボスン、とベットに体を投げ込んだ。スプリングが反動してギシギシと鳴ってうるさい。怒りは収まらず、むしろ増幅していくばかりだ。ホワイトでまるで雪みたいなあの子のボディを眺めながら軽くため息吐く。どうしてこない。 3日前、あっさりと交換されたアドレス。今でも確かにアドレス帳には彼の名前が入ってる。伊達政宗……初めて知ったときは「イタチ」って読んでた。友達に阿呆といわれた。今では、間違うことなんて無いのに。向こうから差し出された真っ赤な服をきたケータイに胸が高鳴ったのも確か。そして同時に、伊達君は私に気があるんじゃないかと伺ったのも確か。けれど、伊達君は学校一のいい男。彼氏にしたい男ナンバーワン、なんていわれてる。外見も高校生とはとても思えず、クールっぽくてカッコイイ……はず。少なくとも、私の友達はそう言っていた。人の感性は違うから一概にそうとは言えないけれど。それに、私だってカッコイイ、とは思ってる。素敵だとは思ってる。ぶっきら棒なしゃべり方だから、ちょっと怖いけど。 でも、突然アドレスを聞かれたら期待しちゃうっていう乙女心もわかるでしょ?今までそんなことがなかったからだ!、なんていわれたそれでお終いだけれど……いいや、だからこそ、期待しちゃう。ひょっとしたら、とか甘い考えを持ってしまう。しかしながらあれから一度も入ってこないメール。なんだなんだ、ただアドレス交換したかっただけなのか?!もしかして、私のアドレスは売られたのか?!(そう、たとえばウザメールサイトとかに。) 「ちくしょー、このバカヤロー!」 そうそう、だから夏休みの補修の間にちろっと伺ってみようかと思った。挨拶くらいしたら返してくれるかな、みたいな。でも、実を言うと私と伊達君は全く教科が被らない。とりあえずセンターを受けることを重視している私たちは、国語や数学、英語とか被るところもあるんだけど、頭が良い伊達君は大抵応用コース。私は頑張って標準コース。地歴も彼は日本史で私は世界史。生物は科目上、取らなかった。会う機会が全く無い。偶然とは思えないほど無い。…つまりは、確かめようが無い。え、何コレ何コレ。こんなんだったら、夏休みなんて来ないほうが良かったよ。あーもう、意味わからないあの人。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。 「……私から、メール送ってみよう、かな。別に変じゃないよね。せっかく交換したんだし、使ったって。」 これで返事が返ったこなかったらいっそのことアドレス消してやる。乙女の儚き心を持て遊んだ奴には、目もくれないくらいが丁度いいさ、ハハハン。当たり障りの無いフレーズを簡素に打ち込んで、ついでにキラキラしたちょっぴり派手な絵文字も添えてメールを送る。意外なことに数分後、すぐに返ってきた。ほっとした……なんでか、わからないけど。 「夏休みはどうですか?毎日補修で飽きるよね。」 「8月入るまでは続くからな。それが終わったら、テストだし?」 「あー…泣ける。伊達君は、センター受けるの?」 「Uh,……まあ、とりあえずは。もだろ?てか、そろそろドラマがstartするぜ。見てんだろ?」 「うん。だってコレ面白いじゃん。イケメンがパラダイスなんですぜ!」 「思い切り女受けだもんな、ソレ。」 「真面目にいい保養になるんだよー。カッコイイんだもん。」 「Is it so?もっとカッコイイ男が近くにいるだろ。You see?」 「え。それってまさか自分自身のこと言ってるんじゃ、ないですよ、ね?」 「That’s right。わかってんじゃねぇか。」 ええと、この返答はどう返せばいいの。とりあえず、納得しておく?まあ、別に彼がカッコイイことには変わりはしないから。でも、これをもし変な風に受け止められたらどうしよう。気があるように見えるかもしれない。否定したら否定したで怒りそうだしな、怒ったらこわそうだしな。目の前で整った顔の男性陣が夏だっていうのに暑そうなブレザーを着ててんやわんやしている。…本気で暑そう。うちは学ランだし皆カッターだからそうでもないけど。なんで長袖?夏服着ないの?そう思っていたら、不意にまたメールが届いた。返すの遅れてしまったから、気遣って送ってくれたのかな。 「ドラマ見てんだったら邪魔しねーよ。また今度メールしな。」 「ありがとう。ていうか、私の送るタイミングが悪かったね。ドラマのことすっかり忘れてた…!」 「フーン、忘れてたって、楽しみにしてたんだろ?この間日誌にも書いてたし。」 「そうなんだけど!ま、それ以前に色々と問題が、ね。」 そう、悔しくも私は伊達君のことを考えたんだ。だからドラマのことも忘れてしまっていた。鳴らないケータイのことばっかり考えた。ホワイトボディの可愛いコちゃんを睨まんばかりに布団に押し付けていた。……可笑しくない、コレ。まるで、高鳴る恋心み、たい……。んん?恋心、って。 「まあいい。じゃ、good night」 「う、ん。おやすみ。」 すぐさま私はケータイを閉じた。ドキドキドキドキ。まだ胸が鳴ってる。え、ど、どうしたんだろう。伊達君ってこの間まで私の隣の席のクラスメイト、で。ただそれだけで。偶然言葉も交わしたのもこの間で。携帯だって交換したのつい最近で。こんなスピード展開は、有りです、か?ヤバイでもなんだか、ドキドキする。あーもう、これって完璧、恋、だよね。片思い暦は伊達に長くないですが、私。こんな大人に近づいた年齢になって、青春だってもう諦めかけてたけど、こんなことがあるなんて思わなかった。ああ、そうか。だから私、伊達君の曖昧な態度にイライラしたんだ。好き、だから。そうか。わかれば簡単だ。 切ないくらいに締め付ける焦燥感。捕らえられた心。これからどうしよう。メール送ってくれるかな…。 ひと夏の恋 *071008 |