キーンコーンカーンコーン、という軽やかな音と共に途端にざわめく教室の雑音。「やっと終わったー!」「昼飯だー!」なんて叫びだすのはきまって男の子たちで。女の子たちはそんな姿にくすりと笑いながら、「おなか空いたね。」なんて隣で小さく囁き合っている。今は丁度数学の時間で、イルカ先生がため息を付きながら何かぼそぼそと呟いていたけれど、日直の声がかかったと同時にガタリ、と教室全体が動いたようなおとに邪魔されてしまう。私は早く早く、なんていそいそとしながらもうすっかり数学の教書を閉じて机の中にインしていた。手にはしっかりお弁当を持っている。イルカ先生が何か小言を言いたそうにこちらに視線を送ってくるが、そんなものは関係ない。ぺこりと頭を下げて「ありがとうございましたー!」なんていったあとすぐ、私はドアに向かって駆け出した。 「あれ、どこいくの?お弁当は?」 「ごめん、ちょっと今日は抜けるわ!用事あるんだ!」 「ふーん、わかった。」 友達にぱちり、と手を合わせてから廊下に駆け出した。他の教室からもざわざわと男の子たちが食堂へ目指して出てきたので、ぶつかりそうになるけれど、なんとかそれを避ける。うん、中々反射神経よくない?っていうのは冗談で。私の中でそれだけ大事なんだろう。特に体育の成績よくないくせにこんなにしゃー!って早く走れるんだもの。この心意気でマラソンとか走ったら10とかもらえそうだよ…多分!決してそんなことしないだろうけどね。そうしている合間に目的の、そう、国語準備室に到着した。カモフラージュとして敢えて期限を破った提出物を手に持ってごくりと唾を飲み込んだあと、こんこんとドアをノックした。 「どーぞ。」 「カカシせんせー、古典の課題持って来ましたー!」 「はーい、こっち持っておいで。」 こぽこぽとなるコーヒーメーカーの横にカカシ先生のデスクはあって。多分、4時間目が授業だったのだろう、他の先生はエビス先生しか残っていなかった。なんだろ、この微妙な組み合わせ…。この2人って会話とかするのかしら。あでも先生の愛読書の”イチャイチャパラダイス”…?だったっけ?アレ、エビス先生も持ってたような気がする。そう思って見つめていたら軽く視線が合ってしまったのでぺこりと会釈してから通り過ぎた。 「はい、せんせー。」 「うん、よろしい。やればできるんだから、今度からはちゃんと提出日を守ってだそーな?」 「はーい。」 はい、とノートを手渡せばぺらぺらと捲ってポン、とはんこを押す。見ました、なんていうどっかの可愛い畑とかで大活躍のソレの顔はすっかりカカシ先生のトレードマークだ。これが増えるだけでも私の心はドキマキしてしまうのだから、仕方ない。エビス先生が「またですか。」なんてつめたい視線を送ってくれたけれど、そんなもの全然効果ありません。こうやって先生のところに手渡しでもっていく機会をどうしてみすみす逃すしますか?利用できる手段は徹底的に利用しないと、ただでさえ教師と生徒っていう大きな壁があるんだから無理でしょう?アタックは積極的にっていうのはそもそも若いからできるのだと思うのですよ。あまり懲りてなさそうだな、なんてカカシ先生は思っているのか少しばかり苦笑して、ノートを返してくれた。普通ならここで終わりなんですが、今日の私は少しばかり違います!ほら、ちゃんとこうしてお弁当も持って来ているんですから! 「あの、カカシ先生…?」 「ん、他にも用事?」 「はい!あの、古典の成績がどーしても上がらなくて。勉強のコツとか教えてもらえませんか?」 「あれ、でもこの間の模試の結果、国語が一番だったじゃない。」 「(それはカカシ先生が担当しているからだよ。愛故!)…もっと偏差値上げたいんです。他の教科が全く駄目だから…。」 「んー、あんまり1教科に絞るのはよくないぞ。バランスよくっていうのが理想だからな。」 「それなら私が「エビス先生ちょっと黙っててください。ていうか貴方も国語教師でしょう。」 中々手ごわいですね、カカシ先生……!おとなしく勉強のコツを話しながら一緒にお弁当食べさせて、よ!ほらこうやってお弁当箱だって持って来ているんですから、そこらへん察して!とか内心思いながらも、なかなかつれないところが逆にカッコイイとか思ってしまう私は末期ですか。っち、仕方ないな、今日はこれで勘弁してやらあ…!お昼前で少し眠たそうなカカシ先生の姿も見ることができたし。あ、眠そうなのはいっつも?そっかそっか。ちょっと残念そうに、「わかりましたー。」と言ったらにこ、と先生は笑顔をくれた。(いやもうそれだけでキュンなんですけど!) 「あれだったら数学のイルカ先生に頼んでみるけど。あと英語の紅先生とか。」 「え…!」 イルカ先生はっさきの授業だったしな…!それに数学はいっくら勉強しても見に付かない気がする。腐っても文系だからね!それに、紅先生は意外とねっちり授業するからなー。放してもらえそうに無いかもしれない。しばし考え込んだ後にっこりと微笑んで首を横に振った。 「いえ、自分で頼みに行きますので!」 「あ、そう、ならいいんだけど。」 「はい、ありがとうございます。」 そのお心遣いは本当に気持ちだけでいっぱいです。優しいんだよな、カカシ先生は。うん。そうして、会話も終わったことだし、しばし居心地の悪い沈黙が続いた後、覚悟を決めて私はにっこりと笑いかけた。いつまでもここに居座ってもうぜぇなんて思われそうだから、そろそろ退出しなくちゃだよな。うん、(無理やり。)一緒にお昼ご飯はまた今度の機会にしよう、と思ってでは、とペコリと頭を下げ、入り口のドアノブに手をかけた。次の課題が出るのは今週の土日だから、今度のチャンスは来週の月曜かなー。あと一週間かツライな…!なんて思っているとカタリと席を立つ音が後ろから聞こえた。はれ?と振り向くとお弁当を持ったカカシ先生が後ろから出てきた。エビス先生に向かって「ちょっと今日は外で食ってきます。」なんて右手をひょいと上げながら。何か言いたそうに口を開きかけたエビス先生だけど、そこでパタンと扉は閉じてしまって。残ったのは廊下で2人キリになってしまった先生と私。あれ、どうしてこんなことになったんだろう…?と不思議そうに先生を見上げれば、くすりと微笑まれた。 「一緒に弁当食いたいなら、ちゃんと言えばいいのに。あまりにも一生懸命だから意地悪しちゃった。」 「……カカシせんせー、気づいてたんですか?」 「もちろん。」 「先生、酷い……!」 今までのわたわたした奮闘振りを返せ!とか脳内から必死に言い訳を搾り出してやってきたんだぞ!とかいろいろと言いたい事はあったけれど、やっぱり、こうやって面白そうにくすくすと笑われるとそれだけでキュンとなって私まで嬉しくなってしまうから。そんなことまでお見通しなんだろう、顔を真っ赤にしてぼそぼそ零している私の頭にポンと手を置いて、こっそりと人差し指を口の前まで持ってきて、一言。 「屋上行こうか、。」 カカシ先生にこんなことを言われるんだったらどんなに苦労したって構わないと思う私はやっぱり末期なんだろうな。 せんせーその顔は反則です! *071206 (「I HOPE You!」さまに献上します。素敵学園パロ企画に参加できてとても嬉しかったです……!ありがとうございました!もしカカシが古典のせんせーなら成績も上がりほうだいですな!) |