カラカラ、となる下駄の音に合わせて揺れる肩。普段履きなれないからか、どことなく足取りは覚束無い。寒々しい空気は遅くまで起きていた寝不足の肌をピン、と刺激する。むしろ寒すぎて寝てしまいそうだ、と思いながらもカラカラと足を速めた。待ち合わせ時間までもう間もない。万が一、遅れてしまったら……?答えはひとつに決まっている。見掛けは優しそうな穏やかな口調でサラリと「噛み殺されたいのかい?」といわれるだろう。彼女であるに対してでも、彼……雲雀恭弥の扱いはとても酷い。そんなことが安易に想像できるため、眠気などは段々と吹っ飛びもはや早歩きと言わんばかりの歩調で一目散に神社を目指して足を速めた。神社の前につくと、既にそこには雲雀が佇んでいた。こちらも男性としては今どき珍しく漆黒の着物を着ている。寒いからか両手を腕中に納めながらいつもと変わらない少しばかり不機嫌そうな形相で、通り過ぎる人々には目もくれず携帯を手にしてなにやら打ち込んでいた。……あ、やばい。殺されそう。たらりと嫌な汗が体を流れた。すると、なにやら戸惑いがちな視線に気が付いたのか雲雀が不意に顔を上げた。瞬間、目が合う。 「あああ明けましておめでとうございま、す……!」 「明けましておめでとう、。着物似合うよ。」 第一声から震えたような声色になっているのは仕方がない。けれど、次に耳にはいてきた言葉にはぱちくりと大きく目を瞬きさせた。 (なんだかよくわからないけど、幻聴が聞こえる…!!あれ、もしかして人違いですかスイマセーン!) 心の中でそう叫びながらくるりと踵を返すと後ろからがっと強い力で掴まれた。……正真正銘の雲雀恭弥だ。こてん、と首をかしげながらもじとーっとした目で彼を見つめれば、「何、威嚇してるの。」と素っ気無い返事が返ってきたのでほっと息を吐いた。本当はここでほっとするところではないのだろうが、そう思わずにはいられない。むしろ、先ほどの言葉がもしも幻聴でなかったとしたら当然の頭は正月ボケでかなりヤバイところまで来ているとしか言いいようがないだろう 「お参りいこうか。」 「そうだね。人が多いし、早く並んだほうが。」 そこまで言い掛けての動きはぴたりと止まった。目の前に差し出された大きな手と雲雀と見比べながら、またもやきょとーんと小首を傾げる。今までどんなにデートの際でも手を繋ごうといってもばっさりと断ってきた彼だというのに。どういった心境の変化だろうか……なんて、そんなレベルではない。一歩間違えたら愛しい(であろう)彼女でさえもあのトンファーで殴りかかってきそうなぐらいの拒否され方だったのだ。いまさら新年だからといってよもやこんなサービスをしてくれるなんて、天と地がひっくり返ってもないだろう。蒼白な顔で雲雀を見つめていると、彼は渋るに「ん。」と可愛く催促しながらぐ、と手を突きつけた。結局、恐ろしいと内面思ってしまいながらもそろりそろりとその手をとってしまった。……何か変なものでも食べてしまったのだろうか、と不安でいっぱいだ。そんな彼女に気が付いたのか彼は不思議そうに問いかける。 「今日のなんだか変じゃない?」 「いやいやいや。私は全くもって普通だよ!むしろ雲雀くんの方がへん!」 「なんで。僕普通だよ。」 「おかしいよ!いっつも遅刻したら地獄に落ちそうなくらい怒ってたくせに、手を繋ごうとしたらトンファー投げてきたくせに、私の外見誉めたことなんて一度もなかったくせに…!」 どこをどうとったら普通だと言えるのですか、とは半分混乱したように叫んだ。雲雀はさも訳がわからないといわんばかりに疑問符を顔面に浮かべながら、興奮状態のの手首をそっと握り締めて耳元で囁いた。 「じゃあ聞くけど。こういう僕は嫌いかい……?」 きききき嫌いなわけあるかー!?、と思わず叫びだしそうになってしまったが、ここは公共の場。下手したら捕まりかねない。朝っぱらから色香のある声で囁かれての心臓はまるで発作でも起こしたかのように苦しくなった。熱くて、苦しくて、…うれしさからか泣きそうになった。そして、違うよ!と大きく首を振り替えしたところで、段々と意識が途切れていった……。 「って、いう夢を見たわけです、よ!」 ルンルンと鼻歌を口ずさまんばかりに機嫌よさそうに微笑むに対して雲雀はしごくコメントしづらそうな表情を浮かべていた。年始早々嬉しそうにしているから何があったのかと思えば、…全くくだらないにもほどがある、とまるで阿呆のようにへらへらとする彼女にかなりの軽蔑のまなざしを向けた。それを直に受けたはぶー!と頬を膨らませながらも、やはり機嫌はいいままでどこかにまにまとしながら言葉を続けた。 「だからねー幸せだったの!もしかしたら正夢になるんじゃないかって起きた瞬間幸せだったよー!」 「ふーんああそう残念だったね。今のところ僕にはその望みを叶えてやる気持ちはこれっぽっちも沸いてこないよ。そもそもその夢の中の僕だって180度変わってて気持ち悪いけど、の性格もヤバイくらい改良されてるよね。何が恐ろしくてびびってるだよ、…こんなあほな子なのに。」 「え、こんなにおしとやかな子は他にいないでしょ?」 「……。」 もう言い尽くしたといわんばかりに顔を背けてしまった雲雀に対して、はやはりどんなに貶されたとしてもうれしそうに顔を緩めるのだった。何故ならば、夢で見ていたものと自分の着物の色は違うけれど、雲雀の着物はまったくそのままだったからだ。これを正夢といわずして何といえばよいだろう。残念だったね、と彼は力のこもってない感じでそう呟いたけれど、としては全然残念ではなかった。それよりも、何より。 「私は雲雀くんと初詣いけただけで、もうめっちゃ嬉しいの!だから正夢なんだよ。新年早々ついてるー!」 「……馬鹿じゃないの。」 「うん、今日はどんなに貶しても許せるから大丈夫。」 自分がどれだけ酷い扱いを受けているか自覚はあるらしく、にこにこと微笑みながらもサラリと現実味のある言葉を口にし。突然、思い立ったようにポンと手を打った雲雀に不思議そうな顔をした。 「じゃあ、僕の夢も正夢にしてもらおうかな。」 「え、何?雲雀くんの初夢に私出てたの?」 「うん。これはしかできないことだから。……いい?」 「モチロン!えええ、なんだかドキドキしちゃうなあ!」 「大丈夫、僕に任せてくれてたらすぐ終わるから。」 「……うん?この手は何?…てか雲雀くんの見た初夢って、まさ、か?」 「姫初めだけど?」 サラリと言い切った雲雀は至極楽しそうで。するすると帯を解きながら冷たくなった畳にを押し倒す。丁度、ひきかけていた布団が隣で眠っているから、なんて嬉しそうに耳元で囁きながらどんどん裸にされていく。ちょちょちょ、まって…!と引き止めたのもとき遅し、すっかり両手は拘束されており何もできない状態だった。 「ああそうそう。夢に出た出演代もプラスして頂くから、覚悟しといてよね。」 優しくなくたって痛くされたって結局君が好きなのさ。 *071222 (明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いしま、す…!雲雀さんの書き方がわからーん、と嘆いているのはいつもの事。許してねー!ゴメン!) |