久しぶりに、夢を見た。いや、正確には久しぶりに見た夢をすっかりそのまま覚えてた。いつもはすっからかんに忘れてしまうんだけれど、今日の夢は結構強烈だったからな。そう、何しろ舞台からしてとても懐かしかったんだ。ふふふ、と笑いながらカーディガンを羽織り、ふわふわのマフラーと帽子を被って玄関先の大きな鏡の前で一回り。くるり、と回ると同時に長めのマフラーも後を追って一回転する。中々長いマフラーってかわいいよね。カツ、と黒いブーツで身を包んだ足を鳴らして玄関から飛び出した。寒い空気が私の身を包んだけれど、そんなのどうってことない。それほど、夢の効果はすさまじかった。だって、内容が内容だもの。 その夢の中の舞台というのは、私が数年前まで暮らしていた日本の学校のこと。公立の中学校だから知らない人も多いのではないかなと思うけど、私のとっては忘れられない母校。えっと名前はー……あれ?えっとまってど忘れした。あーとあーと、…あ!そうそう!並盛中学校っていうの。うちの母校は。で、季節はやっぱり冬だった。丁度今日みたいに雪が降ってて、校庭で誰かが雪合戦してるの。ふふふ、こういうところが中学生らしいよ、ね。それで、当時風紀委員だった……雲雀恭弥くんが生徒をばっさばっさ殴り倒していたシーン。え、笑えないって?そりゃ、やられてる当人からしてみれば笑えないことこの上ないと思うけれど…その時私は雲雀くんに片思いしてたんだよね。だからもう目なんかそっちにぐいぐい引き寄せられちゃって、数学の先生に当てられてしまったの。なぜだか中学生のくせにベクトルなんてやってたわ……恐ろしい。ここが夢が夢である所以かしら。自分でもあまり疑問に思わず解いていたけれど。(最後まで解けなかったけど…!)そ、それで、うん。私はその年のああだから3年に上がる前の春に転校しちゃったわけなのよ。父さんの仕事の都合で、こうしてはるばるイタリアなんて遠いところに来てしまったの。うーん、ちょっと笑えないよね。私も初めてイタリアに行くことが決まった、って言われたときはそれは泣いたし、…何より、雲雀くんにあえなくなるのがとても寂しかった。いや、特別に会話をしたこともないむしろあっちはこっちのことなんて知りもしない間柄だったんだけど、それやっぱり姿が見られないとか会えなくなるのって辛いからさ。どうしても日本に残りたかったけど、私はまだまだ未成年で親の保護がないと生きていけない状態。両親だって娘1人を日本に残して海外にいけるはずが無いし。勢いあまって告白を…!とか思うにも、できずにそのままイタリアに来ちゃったわけで。たまーに夢の中に出てきてくれるくらいが私たちの接点だった。こうして彼のことを思い出すと、今でも忘れてないんだなあ、としみじみとそう思う。もうりっぱな18歳なのにね。恋人だってこちらでできたし、それなりに楽しくやってきたつもりだ。でも、こうして時々思い出したように夢に出てくる彼に会うと、後悔の念がぶわああ!と舞い落ちてくる。 「……告白して玉砕しておけば、こんなに未練がましく無かったんだろうなあ。」 ポツリ、と零した言葉は雪の中に溶け込むようにじゅわ、と崩れていった。思い出すたびに、こうやって後悔してしまうんだ。今更、日本に戻る機会なんて早々ないし、住所だって変わってるかもしれないし、そんな勇気持ち合わせていないし。もどかしい気持ちはいつまでもこの胸の中を這いずり回っているんだろうな、なんて考える。それでも、そんな可能性が低くてももしもう一度会えたなら、私は絶対彼に告げると決めている。過去の自分の気持ちを正直に。こうやってたまーに夢に出てきてくれるのはその気持ちを忘れないようにしてくれているのだろうか、なんて思ったりもしたり。 「まあ、会えることなんて無いだろうけど。」 カツカツと音を立てながら目の前の交差点を曲がった。そろそろクリスマスも近いこのシーズンはお店のウィンドーがクリスマスカラーでいっぱいだ。可愛いサンタさんのぬいぐるみとかトナカイとか、ツリーとかの飾り物で飾られていてとても綺麗。イルミネーションだって夜になると映えるんだろう。こしこしと冷え込んできた手を擦り合わせながら、時計に視線を落とした。うわ、やばい、あともうちょっとでバス来ちゃうよ!慌てて走りこめばバスターミナルにちょうどお目当てのバスがちょこんと到着していて。後もう少しで発車してしまうところだった。うわーうわーまってまって!力を込めて足を動かす。これに乗り遅れたら人がいっぱいいるバスになっちゃうんだよ…!ぎゃーとか思って足を動かしていると、丁度凍った水溜りに足がこう乗っかってしまいまして。つるん、という綺麗な音ともに私の体が反転した。 「……っと。大丈夫かい?」 けれど、私が飛び込んだのはつべたくて雪が掛かった道路ではなくて。どちらかといえば暖かい人肌のぬくもりの中だった。おそるおそる目を開けば、大人っぽい男の人の顔がドアップに映った。 「うわわわわわ!スイマセン!」 「謝る前に早くそこから退いて。」 そしてその次の瞬間、はて、と首を傾げる。今聞こえてきた言葉は日本語じゃなかっただろうか。うん、だってすごく聞き取りやすかったもの。んで、今目に入った人って今日の朝夢で見なかったっけ。あれ…、おかしくない? 「もしかして、……雲雀、恭弥くんですか?」 「そういう君は確かさんだよね。ずっと前にイタリアに転校したっていう。」 「……え!?」 私の名前と転校先までさらっといってくれた雲雀くんには驚きだったけれど、まさか今の今。そんなことを考えている最中に再開できるとは思っても寄らなかった。なんだ、これ、夢の続きか…?そう思ってぐいと頬を引っ張るけれど、すっごい痛かったし、きっと夢ではないのだろう。(いや、もしかしたら痛さまでリアルな夢かもしれないが。)しかしながら、こうしてチャンスを掴むことができたのだ。何はともあれ、言わなければ。すう、とゆっくりと深呼吸をして私はドキドキと高ぶる心境のまま、背が伸びてどこかしら大人っぽくなった雲雀くんを見上げた。 「ずっと前から好きでした!」 ここがバス停の前だってすっかり忘れてた私はなんて阿呆なんだろ…!皆さんドン引きじゃん! *071205 ( title by.cathy ) |