1時間目と2時間目の間カチカチと鳴らしながら使っていたマイシャーペンちゃんの芯が切れそうだな、なんて感ずいたのはそうちょうどくそ難しくてわけがわからない数学の問題に取り掛かっていたときで。ふにゃふにゃとしてなんだか書きにくいなあ、これは芯が短くなってしまったんだろう、なんて苦笑い。しかもそのあとあろうこと勢いあまってカチン、と芯を折ってしまった。カチカチ、カチカチ。何度押しても続きが出てこない。あらま、と思ってお目当てのものを出すためにいったんシャーペンをノートの上に転がした。ゴソゴソ、と筆箱の中を漁る。2年前に買ったソレは大分形が崩れていてふにゃふにゃだ。でもそのしっとりと手に馴染む感じがまた良い。ぱりっと形が彩られたものもそれはそれで良いけれど、私にとってはこのオレンジ色のかわいいこがナンバーワンだ。高校を卒業するまではこれを使い続けていこうと思う。そのパンパンの筆箱の中に手を突っ込んで、ペンとペンの間をかさかさと指で探っているけれど一向に見つからないシャーペンの芯。これがないととてもじゃないけど授業は受けられない。ましてやテストなんて終わったも同然だ。さあああ、と顔が真っ青に染まった。これはこれは、数学が赤点だったとき以来の懐かしい色だ。幸い、今日はテストではないから取り返しのつかないことにはならないのでいい。けれど、流石にノートくらいは取らないと授業を受けている意味が無いのだ。思わず隣で暇そうにケッと言わんばかりの態度を取っている奴に声を掛けてしまった。 「あ、の……!」 「あぁ?」 声を掛けたあとに失敗したー!と大きく心の中で叫んでしまった私の気持ちをどれだけの人がわかってくださるのでしょうか。少なくとも山本くんはさらりと否定しそうだ。なんといっても山本くんと彼は仲が良いから。不機嫌そうな眉にはくっきりとした皺が浮かんでいてぎゃーもうどうしよ?!そういえば隣この人だったよ!なんて恐怖で縮こまりそうになった口と心臓をフル活用して向き合った。やっぱりいいです、なんて言葉は口にすることも恐ろしいし、かといって獄寺くんにシャーシンくださいとお願いするのもなんかちょっと…。そう思って口をぱくぱくさせていると、ぎろりとした視線が突き刺さった。 「なんだよ。」 「シャーペンの芯、持ってない、かな?」 声を掛けてしまったんなら仕方がない。ぐ、と握った拳をスカートの上に乗せながら勇気を持って呟いた。おおおう!意外といけるぜ自分!ナイスだ自分!ちょっぴり沢田くんのいつもの気持ちがわかっちゃったぜ、自分!心なしか声は震えているけれど、そんなことは気にしない。 「そんなもんもねーのかよ。」 「…いつもは持ってるんだけど、切れちゃって。」 「……ったく、仕方ねぇな。」 ぺいって投げ出されたシャーシン。さらっとスルーされてしまうかと思ったけれど、全然そんなことはなく潔くぺいって、それもぺいって貸してくれた。ちょっとだけ嬉しくなってありがとう、と呟いてすすすと2本だけシャーシンを頂戴した。カチン、とキャップを空けてそろそろとそれを突っ込む。カチカチカチ。カチカチカチ、ガッ。……んん?! 「あ!う、わああ!やってしまった…!」 「どうしたんだ?」 「あの。ごめん!……実は私のシャーシン0.4mmだったり。」 「はあ?なんでそんな不便なものを。」 「このくまさん可愛かったんだもん!…せっかく貸してくれたっていうのに。」 一生に一度あるかないかのご好意をしていただいたというのに、なんてことだ!0.5mmのシャーペンぐらい用意してないのか。大体シャーペンっていうのは0.5mmがメジャーだろうが。ぐるぐると脳内を駆け巡る言葉が自分を萎縮していく。あううう、ノートは諦めるしかなさそうだ。ごめん、ともう一度口にしてシャーシンを返そうとしたら、思いがけず振ってきたシャーペン。ごろごろした銀色のドクロが不適な笑みを浮かべている。そもそもドクロというのは笑っているか笑っていないかわからないような表情をしているのだけれど、その時の私には笑っているようにしか見えなかった。まるでそそのかすかのような危ない感じの、笑み。もちろん、男物のそれは私のではなくて。きょと、と顔をあげればちょっと照れくさそうに頬を染めている彼がいた。 「貸すから、使え。無いよりマシだろ。」 「い、いいの…?ほんとに?獄寺くんはどうするの?」 「シャーペンくらいいくらでもある。俺はみたいに馬鹿じゃねぇから。」 うわ、…なんだかイメージと全然違うかもしれない。なんだか、…か、かわいい?そして、結構親切でお人よしだ。ぶつぶつと貶したり命令口調だったりするけれど、やっぱり優しさというものが垣間見えて。嬉しかった。普段、知らない彼の姿を不意打ちに目撃してしまったからかもしれない。途端にどきどきと煩くなった心臓を押さえつけながら私は獄寺くんに向かい合った。私はこのとき初めて獄寺くんに向けて笑顔を見せた。 「ありがと、獄寺くん!」 「………ぶっ!!」 「あれ、私、何か変なこと言った?」 「な、なんでもねぇよ!さっさと前向け。」 「…?うん。」 落ち着かないようにわたわたしながらもちょっとぎょっとしたような表情をして、直ぐにぷいとそっぽを向けた。「たく、こんのアホ。」なんて言葉が聞こえてきたけれど気にしない。誰かの知りえなかった一面を知ってしまうというのはこれほど嬉しいことだったのか、と私は改めて感じたからだ。ぎゅうと借り物のシャーペンを握り締める。本当にシャーシン忘れてよかった。0.4mmしかもってなくてよかった。もしそれがなかったら私はいつまでも獄寺くんのことを恐い不良だと思っていたかもしれない。外見だけをみればそれこそ恐い人なんだけれど、でも、実は親切で優しい、なんて気づかなかった。あ、…そっかだから、沢田くんはなんだかんだいって獄寺くんと一緒にいるんだろうな。恐いもの知らずの山本くんでも本当に悪そうな奴とはつるまないだろう、し。ごろごろしたガイコツがヒニルな笑みを浮かべたまま、「へっ。よかったじゃねぇーか。」なんて囁いているようなそんな気がした。キラキラとした銀色のガイコツは金属でできていて、冷たいはずなのに握っていた右手はとても熱かった。 *080126 (初書きごっくん。そうしてこの後、ちらちらと隣が気になってしょうがない思春期の少年がいてくれたらわたしはそれだけでお腹いっぱいです。)( title by.ラインズマン ) |