太公望の背中は小さい。身長が150センチ代しかない上に、筋肉も余りなく、360度どこからみてもいたいけな青年のような体つきだ。しかも、顔つきだって少年のように愛くるしくはないけど、思いっきり童顔。隣に黄飛虎が並んだら、まるで親子のような関係に見える。しかしながら、中身の年齢は相当なもので、黄飛虎の倍くらいは生きているのではないだろうか。詳しい年齢は私もよく知らないが、私よりも長生きなのは確かだ。言葉遣いは大人を通り越して、年齢のとおりじじいしゃべりだから、見た目と話したときのギャップがものすごいある。時々変な怠け癖が出てそこらへんをごろごろしてたり、にょほほとかいう変な言葉をしゃべったりするが、彼の背中には負えないくらいの大きなものが乗っかっているのではないかと私は不安になる。 頼りなさそうに見えて、意外と頼りになる。最終的に知らず知らずのうちに「どうしよう。」って相談に行くのはいつも太公望のところ。結局なんだかんだいって、私は彼に頼ってばっかりいる。太公望も初めのうちは「それくらいは自分で考えよ。」とかいって突っぱねるけど、うーんうーん考えて、考えて、考えて。それでも答えが出なかったら何らかの方法で道しるべを示してくれる。しかもそれは、あくまでアドバイスとしてであって鵜呑みにさせるような押し付けがましいことは決してしない。私だったら相談ごとに感情移入しすぎてきっととても相手に自分の意見をがんがん押し付けるようなことをしてしまうと思う。私にとって太公望はゆらゆらゆれる並みの間をちょっと先導するように魚が泳いで先を見据えさせてくれるような、そんな存在だった。 上記に書いたことを書類をぱさぱさ捲っている太公望の仕事の合間の最中に言ってみた。そしたら、彼は持っていた書類をパサと机の上に置いてくしゃりとした苦笑いをこぼした。 「それは、買い被りすぎだ。わしは自分の思うようにしているだけだからのう。」 私が言っているのは太公望の一部分しか見えていないんだと、彼は頭をガシガシかきながら困ったように言った。桃を周の倉庫から夜な夜な窃盗したり、戦闘では戦うよりまずは逃げるが座右の銘だし、とか指折りに数えながら「ほらたいした輩ではなかろう。」、と呟く。それは確かにそうかもしれないけれど、それだって太公望の一部分でしかないのだ。そうやって反撃したら、ちょいちょいと手招きするように右手を動かした。 「お主はどうもあれだな、主観的というかなんというか。周りが見えなくなることがよくあるのではないか?」 「自分ではそうは思わないけど…そうなのかな。」 「うむ。客観的に物事を見てみよ。それは、いづれは必要になる感性だからのう。」 「んーー、でもそれがさっきの話とどいういう関係が?」 首を傾げれば、彼はまだまだおぬしは青いのう、なんて呟きながら思い切り頭を撫でた。それはそうだ、何十年も生きている彼に比べればまだ孵化もしてないひよっこだろう。いや、孵化はしてないとこの世に生まれてすらないから孵化したてのひよこってとこだろうか。 「この度のことをお主はいっておるのだろうが、もしわしが一人でおったらこんなことできてはおらん。みながいるからこそ、こうして前へ進めることができるのだ。だからけしてわし一人が重荷を背負ってるわけではないのだよ。」 外を眺めれば反対側の窓には武王の姿があった。その奥には周公旦が武王の傍で何やら口を開いている。上空を見上げればナタクと天祥がお空のお散歩真っ最中だし、屋根の上では天化とスープーが仲良く日光浴している。太公望の視線が物語っている、優しい優しい仲間への愛情と信頼の気持ち。 「……いいなあ。」 自然とこぼれた羨みの篭った呟き。太公望は目を丸くして、笑った。 「何を言っておる、も入っているきまっとるだろう。」 「そうなの?」 「どうしてそこで驚くのだ。そっちのが不思議だっつーの。」 「だって、さっきも言ったけど、私はいっつも太公望に頼ってばっかりで何もしてあげれないから。青二才だし、特に役に立っているわけでもないし。」 「…では聞くが、わしとお茶を共にするのは誰の役目だ?」 「私、だね。太公望と一緒におやつ食べるの美味しいし。」 「では、みなが戦ったあとに怪我の治癒をするのは?」 「私、だけど…あれってただ消毒して包帯巻いて終わりって感じの…。」 私の無能ぶりしか浮かんでこなかったような気がするが、それでも太公望は笑って言うのだ。「それでいいのだ。」と。なんでも人には人にしかできないことがあって、それはどんな些細なことでも相手にとっては価値が高かったりするんだ、と。私はどうしたって彼らの戦闘自体へは共についていくことすらできないのだが、それでも待っていてくれる存在がいるというのはとても心強いものなのだと、言っていた。結局、太公望が私の中に存在価値を1つでも見つけてくれたならばそれでいいと思った。私は太公望の机を通り越して彼のまん前にたった。そして、さっと両手を広げて彼に無言で訴えかけた。すると呆れたような視線が降りかかってきたけど、そのままぽすんと抱きしめられる。ほわほわした暖かさが身体を包んだ。 「…お主、変わらんのう。まるで子供ではないか。」 「いいの、私、太公望にぎゅってしてもらうの大好きだから。」 「たく、……しばらくしたらお茶にするぞ。」 「うん。」 なんだかんだいって今回だって反対に励まされているような、むしろ諭されているような感じがするのだけれど、もし次回があるならば今度は逆の立場になりたい。大きな大きな重荷を少ししか私が背負うことができなくとも、彼の傍にいるくらいならできるから。私はぎゅ、と誓うように腕に力を込めた。 温かすぎました 貴方の背中をずっと追いかけて生きたい *081008 ( title by.cathy ) |