「悪い、 。」 「あ、うん。そっか…うんあはは!そうだよねぇ。」 不必要に流れる笑いが私の中で現実味を帯びさせた。今まではどうやってこの気持ちを伝えようか、それだけでいっぱいだった。今までの彼への態度できっと感づいていてもおかしくないはずの事実を、こうして直接言葉に載せて伝えることはとても勇気のいることだ。ましてや、それを電話や紙、もしくは携帯を介せずに告げるなんてことしたことがなかった。ただ、伝えないと伝えるとでは全く違う。口に乗せてサラリと告げるだけで、それはお互いに了解の意味となる。相手もそれを理解し、私もそれを改めて自分で理解する。私はこの人が好きなんだ、と。 居心地が悪そうに揺れる蒼い瞳を私は視界に入れた。なんて綺麗なんだろう。私が一番初めに跡部のことを気になりだしたのは、テニス部だからではなくて、生徒会長だからではなくてその綺麗な瞳を見たからだった。蒼くて吸い込まれそうな瞳はときにはぐっと強くなり、ときにはかったるそうに細められ、さらには目じりを下げてやんわりと微笑むことだってある。よく見かけるのはキリと吊り上げられた今にも怒り出してしまいそうな目だけれど。私はそんな瞳に恋をしたんだ。 「跡部には、その、…好きな人がいるの?」 「ああ。」 「そっかあ…。」 そっかあ、以外に何か気の利いたことでも言えればよかった。私は素直にそうやって相槌するしかできなかった。でも、ああって言ってくれて少しだけ安心した。跡部もこんな気持ちで1人の女の子のことを見ているということだ。そのたった1人の女のこに嫉妬の念がないといえばそれは嘘になる。私を見て欲しいという気持ちもある。けれど、それと同じくらい私は跡部に幸せになってほしい。告白されて断るたびに彼が傷つかなかったわけがない。億劫に思わないわけが無い。だから、いつか、断らなくてもいい告白が彼に訪れますように。 「ありがとう、跡部。私の気持ち聞いてくれて。告げる側だって勇気がいるけど、振る側だって勇気がいるのにね。あいにく私はそんな立場にたったことなんぞないけど、……跡部見れてばなんかわかる。」 「何十回も告白される身になってみねぇと、ホントのツラさはわからないと思うが。」 「それなら無理だ、私もてないもん。」 「わかってて言ってるんだから真に受けるなよ。」 ああ、顔が和らいだ。わかっていたはずだ。彼にこんなことを言わせることになるなんて。それでも抑え切れなかった。あふれるばかりの好きという気持ち。恋愛なんて数えるほどしかしてきたことのない私にとっては、こんなに胸を飛び出しそうな気持ちを抱えたのは初めてだった。それじゃあ、と私は手を挙げた。跡部もああ、といって首を振る。けど、不意にしっかりとした蒼い目に捕らえられてしまった。開きかけた唇に、ぎゅうと胸を鷲掴みされる。 「好きだって言ってくれたこと、嬉しかった。」 私は、この匂いを知ってる。今にも降りだしそうな雫の匂い。目から零れるたくさんの水。 「将来ぜったいすんごいきれーな女になってみせるから。そのとき後悔しても遅いんだからねー!」 「っは、言ってろ。ばか。」 そうやって最後に宣言した私の顔は思惑通り笑っていただろうか。これで泣きそうだったら本当に滑稽にもほどがあるのだけれど。もしそうだとしても、聡明な貴方ならわかるだろう。私の強がりを。そして、ささやかな感謝の気持ちを。その証拠に、彼はまぶしいくらいの笑顔で私に返してくれた。私はそんな貴方の笑顔が好きだった。たとえ、一目惚れした蒼い瞳が見えなくても、大好きだった。 *080530 ( title by.cathy ) |